「ネエ、この鈴に、何を賭けてたの?」

尋ねると、ギンは気まずそうに顔をしかめた。
微妙に顔を背けながら隠し事を咎められた子供のように、ぼそぼそと答える。

「、、、、、、、、、、、女装。」

「ハイ?!」

「せやから、女物のきもの着て藤娘おどらなあかんねん。」

「でも、それって、、やちるちゃんは罰ゲームにならないんじゃない?」

「やちるちゃんが負けたら、踊るんは剣八や。」

「、、、、、、、、、、それって、、、、本人知ってるわけ?!」

「知らん。」

思わず畳み掛けるように尋ねると、ギンはむやみに胸をはって答えた。

「へえーーー。」

手の中で小さな鈴を転がせば、ころころと可愛い音がする。

「じゃ、私がこれをやちるちゃんに渡したら、、あんたの負けよね。」

「明日になってからなら、かまへんけど。」

「今日の何時まで?」

「ん〜〜〜〜、あと半刻。」

「あっそ?じゃ〜急がなくっちゃ♪」

「ちょい、待ち!!」

いそいそと立ち上がり、踵をかえした乱菊に、ギンはあわてて声をかける。

「それ、返さんか!!」

「あら、何のこと?」

「白々しいことぬか、、あっ、服んなか仕舞うな!!!」

「うふふふふふ★下手に触ったら犯罪よv」

「それ渡されたら、公衆の面前で藤娘やで?!」

「いいんじゃない?楽しみにしてるわぁ♪」

「冗談も大概にせえよ。」


不穏な顔をして立ちふさがるギンの肩を、トンッ と軽く叩き、すれ違いざまに小さな声で囁く。


「取れるもんなら、取ってみたら、、、?」

細い女の指先が荒い服地のおうとつを、ゆっくりとなぞって落ちる。
二の腕に軽く頬をよせると、男の汗のにおいがした。


死神統学院に入学して、一人、女子寮へと歩いた暗い廊下。

護廷十三隊、入隊式の夜。酒宴からの帰り際、遠くに見つけた花街の奥へと消えていくうしろ姿。

彼の副官就任を、、、人づてに聞いた日の、青い空。


そんな記憶が、走馬灯のようにくるくると、脳裏をよぎる。

「乱、、、顔あげてみ?」


俯いていたおもてを上げると、すぐ、目の前にギンの顔があった。
すうっと、長い指で、頤をなでられ、息をのんだ瞬間、
懐をなにかが、掠め去っていく。


「おおきにv」

かがめていた背をもとに戻しながら、彼は、なにごとも無かったかのように、あっけらかんと笑ってみせた。

「ほな、またな。」

そういって、ギンは、身軽に踵を返し、ひょいっと近くの窓枠から、その身を宙に躍らせた。

(、、、また、かわされた、、、)

心中での舌打ちは、飄々と去っていく、つかみどころの無い男への憤りより、
他愛もない戯れに心を揺らして、すぐ、隙をみせてしまう自身のふがいなさに向けたもの。

十代の生娘じゃあ、あるまいに。

「色恋沙汰になると面倒くさい」

互いの立場をかんがみれば確かにそうだが、所詮、体よく断るための言い訳だろう。
おもえば、何事につけソツのない彼が、乱菊に隙を見せたことは、子供の頃から一度も無かった気がする。

はたまた、長い腐れ縁なだけに、いざというときすんなり切るのはむずかしい、と踏まれたのかもしれないが、、。


「全く、、なんなのかしらね。」

吐き出すように宙へ投げ出された言葉が、一体誰に向けたものなのか。
そんな事も分からないほど心が乱れる事を、恋というなら、これは、まさしくそうなのだろう。
そう呟いたのも、単に行き詰まりつつある自分に向けた、慰めなのかもしれなかった。







作ってる最中、本人でさえ、これ設定勝手につくりすぎ!!と突っ込みました。
ああ、なんだかもう、申し訳なくって集英社に足向けて眠れませんよ!!
あわわわわ(汗) しかも乱姐さん、途中で目的変わって、、
いや、本当は、友達だと思ってたのについ、その場のいきおいで手を出しちゃって困ったな、な市丸さんと、中途半端に踏ん切りがつかなくなっちゃた乱ネエの、アイタタ裏話しだったのです。あっはっは!!
友人の「華は隠したほうが艶っぽいのよ!!」の一言で、健全路線へと強制変換したという経緯が。

2004